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iPhone/iPadのDTCP-IP対応に関するAVwatchのステマ記事から見える日本の家電業界の閉塞感

AV watch誌の記事

DLNA関連でこんな記事がホッテントリになっていた。
iPhone/iPadでもDTCP-IP対応が可能に? -AV Watch
DTCP関連の1次ソースはDTLA社の英文資料しかなく、すぐ翌日にAVwatchが記事にするのは不自然。*1
DTLA社の中の人=日系家電メーカーからリークとTwonky Beamのネガキャンを頼まれたんじゃないかと、深読みし、このニュースの深層で起きていることを考察してみたい。

AV watch記事の要点

背景:iPhone, AndroidはTTL監視できない。
ニュース:DTCP-IPのライセンス規定が緩和され、TTL監視が必須でなくなった。
推測:きっとDTCP-IP対応のiPhoneアプリが登場するゾ!

忙しいヒトのための結論

  1. AVwatchの記事は家電メーカーのステマ
  2. iPhone/iPadDTCP-IP対応はギョーカイの意向次第
  3. walkman, D-snap, gigabeat」と同じ失敗を「ナスネ、ディーガ、レグザ」で繰り返し、日本の家電メーカーはApple様にフルボッコにされるだろう

目次

  1. TTL制限はそもそも無意味
  2. 濡れ衣のTwonky beamは業界のじゃじゃ馬?!
  3. DTCP-IPは2011年12月からTTL&RTT制限が不要になっている(DTCP+)
  4. iPhone/iPadDTCP-IP対応できない本当の理由は?
  5. はてな読者のためのテレビ録画機器ベストバイは「PT3とiPad
  6. 2012年の冷えきったレコーダー市況とメディア業界の未来予想図

TTL制限はそもそも無意味

なぜTTL制限が必要か?

DTCP-IPでは、TTLとRTTをチェックすることで、コンテンツの利用を家庭内LANに限定している。
なぜそんな制限をかけたのか?
アクトビラひかりTV、U-NEXT、notTV等のVOD(ビデオ・オン・デマンドサービス)で金儲けをしたい権利団体(テレビ局、代理店、プロダクションetc)の同意を得るためだ。
テレビ局は基本的に「番組を録画してほしくない」と思っている人々。
一方、家電メーカーはレコーダーを買ってもらうために様々な付加機能をつけたい。しかしDLNAでいつでもどこでも番組が見れるようになると、「便利すぎて誰もCM付いた放送を見なくなるじゃんかよっ!」とテレビ局側から文句が出た。
「ウチのなかでしか使えないようにしますんで、なにとぞ・・・」と家電メーカーが譲歩して、DTCP-IP規格が誕生した。
波風立てることを嫌う日本らしい美談(笑)である。アメリカのテレビ放送ではDTCP-IP問題はない。

TTLとRTTのダブルチェック

番組を配信するサーバー(レコーダー)と閲覧するクライアント(スマホ)が家庭内LANにあることを確認するために、DTCP-IPではTTLとRTTをそれぞれダブルチェックをしている。
つまり、クライアントがTTLやRTTを無視して通信を要求しても、サーバ側も同様にTTLとRTTをチェックできるので、LAN内であることを確実に確認できる仕組みだ。家庭内LANであってもルーターを3つ以上使ってしまうとアウトになる厳しい判定条件だ。

TTL監視緩和は無意味

結論として、今回のDTCP-IPライセンスのTTL監視義務撤廃はあまり意味がない。相変わらずRTTをチェックする必要があるし、iOSや古いAndroidでTTLを設定できないならば、DLNAサーバから通信を拒否されてしまうはずだからだ。

濡れ衣のTwonky beamは業界のじゃじゃ馬?!

濡れ衣

AV watch誌の記事では、パケットビデオ社のTwonky Beamにライセンス違反の濡れ衣が着せられている。

また、DTCP-IP対応のAndroid端末は、TTLを取得できるよう、端末出荷段階でモジュールをプリインストールする必要があった(なお、「Twonky Beam」については、TTL値をチェックしないことが問題視されていた)。

これが本当ならポリス沙汰で大炎上するはずだ。
DTCPのライセンスは厳重に管理され、利用するには毎年1万ドル以上の手数料と出荷台数に応じたライセンス利用料を開発ベンダーは支払う必要がある。
TTLチェックを意図的に違反するとは思えない。
調べてみると、Twonky BeamのDTCP-IP対応はAndroid4.0以降に限定されている。そしてAndroid4.0以降はDiXiMもDTCP-IPに対応しているので、おそらくAndroidAPIが更新されたと推測するほうが合理的だ。

火のないところに煙はたたない?

DTCP-IPに対応したDLNAクライアントソフトは、DiXiMが一般的。NASAndroidにバンドルされていることが多い。
知名度こそ劣るもののTwonky Beamは、なんとAndroid/iOSともに無料でインストールできる。
DiXiMもTwonky BeamもDTCP-IPに対応。シェアトップのDiXiMはバンドル専用、一方のTwonky BeamはGoogle playで誰でもインストール可能。
ライセンスを厳しく管理することで付加価値を保とうとした日本の家電メーカーにとって、Twonky Beamのバラまき戦術は苦々しく思えたはずだ。
ちなみに、DTCP-IPは1端末あたり約5セントのライセンス利用料がかかる。
Google Playによるインストール数は「100,000 − 500,000」なので、パケットビデオ社は5千ドル〜2万5千ドルの赤字が発生している計算になる。宣伝費用と考えたらリーズナブルか?
もしかしたら、DTCPのライセンスはデバイスメーカーを想定していて、ソフトウェア単体では利用料がかからないような抜け穴があるのかもしれない。


この問題、予想以上に根深い事情につながっていそうだ。
そもそもDTCP-IPのversion1.4ではTTL・RTTチェック自体が撤廃され、リモートアクセス機能が拡張されている。DLNA/DTCP-IP関連に渦巻く背景はなにか!?
次回の記事につづく。

サルでもわかる用語解説

DLNA

ナスネ、トルネ、ディーガなどレコーダに録画した番組を、離れた場所にあるテレビやスマホで見る機能を「DLNA」という。

DTCP-IP

コピーガードの方式。マクロビジョンや、コピーコントロールCDのお仲間。DTCP等によるコピーガードをかけないと、日本のテレビ番組は録画できないようになっている。

DLNADTCP-IPの関係

DLNAは映像を送受信するシンプル機能。
DTCP-IPはコピーガードの方式で、ライセンスが厳しく管理されている。
ナスネで録画した番組をPS3では見れても、iPhoneのアプリでは見れないのは、DLNA機能があってもDTCP-IPには対応していないから。

DTLA社

DTCPを決めている秘密結社。インテル、日立、パナソニック、ソニー、東芝の5社が共同出資

情報ソース

DTCP関連の1次ソースはすべてDTLA社のウェブサイト。
しょっちゅうリンクアドレスが変わるのでご注意。
・ライセンス利用料
Adopter Agreement (October 2012)
http://www.dtcp.com/documents/licensing/dtla-adopter-agreement.pdf
魚拓:http://megalodon.jp/2012-1118-1831-09/www.dtcp.com/documents/licensing/dtla-adopter-agreement.pdf
・AV watch記事
http://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/20121116_571956.html
魚拓:http://megalodon.jp/2012-1118-1832-50/av.watch.impress.co.jp/docs/topic/20121116_571956.html
・TTLとRTTの規定
DTCP Volume 1 Supplement E Mapping DTCP to IP, Revision 1.4ed1 (Informational Version).
http://www.dtcp.com/documents/dtcp/info-20111214-dtcp-v1se-ip-rev-1-p-4-ed-1.pdf
魚拓:http://megalodon.jp/2012-1118-1835-14/www.dtcp.com/documents/dtcp/info-20111214-dtcp-v1se-ip-rev-1-p-4-ed-1.pdf
・TTLとRTTのダブルチェック
TTLとRTTをクライアント・サーバの双方で確認しているか?については想像です。
詳しい人教えてください。
・IOS/AndroidのTTL, RTTの設定
アプリからTTL、RTTを取得・設定できるのか?できないのか?
詳しい人教えてください。

*1:翌日じゃなくて翌月です。