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日本のテレビ産業史「1990年代 DTCPとi.LINKによるネットワーク化」

前の記事の続き。

概要

  1. 90年代後半、DVDやMDのコピーガードのためDTCPが考案され、i.LINK端子に採用された。
  2. DTCPは、映画会社やレコード会社にとっては違法コピーの排除に、メーカーにとっても自社製品の囲い込みに役立った。
  3. ゼロ年代になると、DLNAによって家電ネットワーク化がさらに加速していく。

DTCPの歴史

DTCPが誕生したのは1998年。
IEEE1394端子(DV端子、i.LinkやFirewire)のコピーガード方式として提案されたのが始まりだった。

年表
  • 1996年 デジタル化に伴うカジュアルコピーを防止するため、映画音楽業界,コンピュータ業界,及び民生電子機器業界でCPTWG(Copy Protection Technical Working Group)を結成。*1
  • 1998年2月 5C*2がCPTWGにDTCPを提案
  • 1998年6月 ライセンス管理会社DTLA(Digital Transmission Licensing Administrator)を設立
  • 1998年7月 DTCP Revision 1.0を発行
  • 1998年9月 DTLAがDTCPのライセンス供与を開始*3

DTCPに対応したIEEE1394のコントローラLSI

「内販で足元を固め、外販で攻める」
ソニーやパナソニックに代表される垂直統合型 半導体ビジネスモデルが、
デジタル家電の初期においてはまだ通用していた。

DTCPの暗号化・復号化をリアルタイム処理するには専用LSIが必要だったが、
DTCPの策定メンバー(intel, panasonic, sony, toshiba, hitachi)や家電メーカーと関係が深い半導体メーカーしか対応LSIを発表しなかった。
DTCPの仕様を得るには高額のライセンスが必要であり、ハードルが高かったのだろう。

結果、日本の半導体メーカーが高付加価値なAV機器向けIEEE1394コントローラLSIで独占的な地位を築くことに成功した。
逆に、DTCPが不要でコストが問われるパソコン向けIEEE1394コントローラでは、米大手テキサス・インスツルメンツ(TI)や台湾の新興ファブレスメーカーVIA社が市場を席巻したが、PC用途ではIEEE1394端子自体がUSB端子に淘汰されていった。

年表
  • 1997年1月 ソニーがDTCPに初めて対応したi.LINKコントローラLSIチップセット「CXD3201R」(サンプル価格50ドル)と「CXD1945R」(同10ドル)を発表。*4
  • 1998年12月 松下電器が1チップのDTCP対応IEEE1394コントローラLSI「MN864501」(サンプル価格3000円)を発表*5
  • 1999年5月 ソニーも1チップのDTCP対応 i.LINKコントローラー「CXD3204R」(サンプル価格3000円)を発表*6
  • 2000年3月 オランダPhilipsと米DivioがDV-CODECとDTCP対応IEEE1394コントローラLSIセット「NW701」「PDI1394L41」「PDI1394P11A」を発表*7
  • 2000年6月 米TIがDTCP対応IEEE1394 リンク層LSI「TSB42AA4」(参考価格$9.5/5万個)を発売*8
  • 2000年8月 東芝がDTCP専用LSI「TC81501F」を含むBSデジタルテレビ用チップセットを発表*9
  • 2000年10月 NECが32bitマイコン「V850/MA1」内蔵のDTCP対応IEEE1394用リンク層LSI「μPD72890」(サンプル価格3000円)を発売。*10
  • 2001年4月 NECがDVコーデック内蔵したDTCP対応IEEE1394リンク層LSI 「uPD72891」を発表*11
  • 2002年2月 TIがARMコア内蔵のIEEE 1394システムチップ「TSB43CA43A(iceLynx-Micro)」を発表
  • 2002年7月 パナソニックが同時録再できるDVコーデック内蔵DTCP対応IEEE1394リンク層LSI「MN673745」(サンプル価格4000円)を発表*12
  • 2004年3月 NEC(ルネサス)がDVDレコーダー用8チップを1チップ化したシステムLSI「μPD61181」(サンプル価格1万円)を発表*13

IEEE1394向けDTCPを採用したAV機器

IEEE1394端子をソニーは「i.LINK」という愛称をつけ、普及を狙った。
DTCPの策定により、自分で録画したビデオカメラだけでなく、
デジタルテレビ放送やSACDDVD-AudioIEEE1394経由のデジタル転送が可能になった。
チューナー・DVHSレコーダ・HDDレコーダなど、AV家電がネットワークでつながる世界を切り開いたのだ。

DTCP登場前
  • 1995年 ソニーがDV端子を搭載したビデオカメラ「DCR-VX1000」を発売*14
  • 1997年 ソニーがDV端子を搭載したVTR「DHR-1000」を43万円で発売*15
DTCP登場後
  • 1998年 パーフェクTV!とJスカイBが合併。スカイパーフェクTV!本放送開始*16
  • 1999年5月 ソニーがi.LINK(TS)搭載したデジタルCS放送チューナー「DST-MS9」を発売。DTCPには自社LSI「CXD3201R」を採用。*17
  • 1999年8月 ソニーがチューナ外付けのi.LINK搭載のD−VHSレコーダー「SLD-DC1」を14万円で発売*18
  • 1999年10月 日立がi.LINK搭載のD-VHSレコーダー「DT-DR5000」を20万円で発売*19
  • 2000年9月 パナソニックがi.LINK搭載テレビ「TH-36D10(愛称:デジタル タウ)」を48万円で発売*20
  • 2001年1月 パナソニックがi.LINK搭載した世界初のハイビジョンHDDレコーダ「デジタンク NV-HDR1000」を23万円で発売*21
  • 2002年4月 IODATAが実売5万円のi.LINK接続対応の80GB HDDユニット「HVR-HD80」(Rec-POT)を発売。DTCPには松下製AVHDDを採用。*22

加速するAV家電のネットワーク化

i.LINKは機器のネットワーク接続可能にしたが、
機器同士の相性があり、エラーが頻発するという課題があった。
より使いやすく、ユーザフレンドリーなネットワーク家電を実現するために、DLNAが登場することになる。

*1:全米映画業協会(MPAA, Motion Picture Association of America), 全米レコード協会(RIAA, Recording Industry Association of America), Intel, IBM, 東芝, 松下電器が中核メンバー

*2:インテル、日立、松下電器産業、ソニー、東芝

*3:[http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press_Archive/199809/98-0924/:title]

*4:[http://www.thefreelibrary.com/Sony+Announces+the+First+i.LINK+--+IEEE1394+--+LSI+Incorporating+5C...-a053517097:title]

*5:[http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981208/pana.htm:title], [http://web.archive.org/web/20010618215314/http://www.matsushita.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn981207-3/jn981207-3.html:title]

*6:[http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press_Archive/199905/99-048/index.html:title]

*7:[http://www.thefreelibrary.com/Philips+Semiconductors%2c+Divio+Develop+1394+Digital+Video+Reference...-a061633845:title], [http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070809/137713/?ST=bbint:title]

*8:[http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071114/142366/:title]

*9:[http://www.toshiba.co.jp/tech/review/2000/08/b05.pdf:title]

*10:[http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071120/142749/:title]

*11:[http://www.nec.co.jp/press/en/0104/1901.html:title]

*12:[http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020723/pana2.htm:title]

*13:[http://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0403/22/news023.html:title]

*14:[http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/sonyhistory-f.html:title]

*15:[http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press_Archive/199709/97-086/:title]

*16:[http://eiseihoso.org/history/:title]

*17:[http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press_Archive/199905/99-048/index.html:title]

*18:[http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/199907/99-0712/:title]

*19:[http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/9908/0802.html:title]

*20:[http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000525/pana.htm:title]

*21:[http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010118/pana.htm:title]

*22:[http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020418/iodata2.htm:title]

*23:[http://www.sony.jp/products/i-link/ilink/index02.html:title]