セカンドベストはなんだ?

最善の策が取れなくても良い。最善を尽くすことがダイジ。

教職員の駆け込み退職批判に隠れた陰謀は?


今年度に退職を予定している埼玉県の教職員の「駆け込み退職」が問題になっている。
教員批判だけでなく、「2月施行はおかしい」という制度を批判する電話などが埼玉県に相次いでいるそうだ。*1
この問題を流行りの行動経済学っぽく考えてみよう。

さて、駆け込み退職をする先生と2月に退職金削減をスタートさせた埼玉県、悪いのはどっち?

ぶっちゃけ、どっちも悪くない。
早期退職する先生も手当削減を2月に踏み切った埼玉県も経済的に合理的な判断。
そもそも「駆け込み退職する先生は無責任だ!」とか「4月直前に施行した地方自治体がおかしい!」と「教師vs自治体」の対立軸にマスコミが論点を誘導しているように感じる。
なにか隠された狙いがありそうだ。
例えば、本当の狙いは人件費削減でなく、ズル賢い官僚が仕込んだ社会実験だったり?
定年を迎える教職員の退職金削減は、ミルグラム効果(権威へ服従する心理傾向)を行動経済学のモデルで分析・利用するのにうってつけのサンプルだ。

駆け込み退職する教員が悪いのか?

次の選択を迫られた場合、あなたはどうする?*2
1. 1月に早期退職する
1. 3月まで無給で働き、さらに70万円を支払う(!)
誰もが1.を選ぶだろう。2ヶ月もタダ働きさせられた上に70万円支払ったら、損しかしない。

埼玉県の教職員はこれと似た状況だった。駆け込み退職が合理的な選択であることは明白。
資本主義社会で金勘定をまるっきり無視して「教育者としてのモラル」云々の価値観を押し付けて批判するのはおかしい。

2月から削減スタートした埼玉県が悪いのか?

退職手当減額を4月から適用すれば、駆け込み退職の混乱は避けられる。
それなのに埼玉県は2月から適用した。
4月にするべきだったのか?
否。埼玉県の判断は合理的だ。
4月より前に制度を適用すれば、早期退職しない人数分だけ人件費を削減できる。

埼玉県はコストカットのための合理的な選択をしたまで。
税金の無駄遣いを減らす本来の目的を棚上げした批判はおかしい。

隠された狙いはなにか?

混乱が予想される制度を勇み足でスタートさせた背景には、ミルグラム効果を行動経済学でモデル化してみたいという総務省の狙いがあったのかもしれない。
ミルグラム効果について、ここではごく単純に「権威の影響を受けると理性的な判断ができなくなる心理的傾向」とだけ定義しておく。
また、「権威」もおおざっぱに「早期退職を妨げるバイアス(世間からの批判、クラス担任の有無、生徒の信頼、職場のつながり等)」と広義に解釈してほしい。たしかに早期退職しない理由は様々なバイアス(ここでいう「権威」)が複雑にからみあっている。しかし自治体は重回帰分析によってそれぞれのバイアスの影響度合を算出できる。

もしミルグラム効果を行動経済学でモデル化できれば、企業・官公庁には大きなメリットが生まれる。
たとえばこんな問題について、具体的な金額で答えが得られるのだから!
「いくら支払ったら、早期退職に応じるのか?」
「いくらまでなら、給料を減らしても退職しないのか?」

埼玉県では90%が早期退職を申し出なかった。
「権威」の影響を受けて、退職金が120万円減ってしまっても、ほとんどの人が馬鹿正直に4月まで奉職することを選んだというわけだ。
では、削減金額が500万円だとしても、90%の人が奉職するだろうか?・・・
自治体はひとりひとりの削減金額・勤怠評価・家族構成など詳細なデータをつかんでいる。
こんなに良質な標本が手に入るチャンスはめったにない。
総務省ミルグラム効果の行動経済学的なモデル化を企んでいるという陰謀説はありえない話ではない・・・

まとめ

官民格差の速やかな是正という大義名分。
混乱した政局のなか、改正された国家公務員退職手当法。
日本社会の構造的な原因なのに、「先公が駆け込み退職してっぞ!」とスケープゴートにされてひどいニュースだと感じた。
予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 増補版

参考

「駆け込み」と言うなら、そもそも国家公務員の退職手当を減らすための改正が「駆け込み」と言えるだろう。その成立は、直後に衆院解散を控えた11月16日のことだ。

 政局のドタバタが頂点に達する中、当時の与党主導で衆参両院とも1時間程度の委員会審議を経て可決、成立させた。これを受け、国は早々1月1日施行としたのは、退職手当の減額分と年度末までの給与分のプラスとマイナスを勘案、早期退職に予防線を張ったからに違いない。

404 Not Found

 私が今日、これをブログに書かなければ、と思ったのは、このニュースに対して、ブログへのコメントは「情けない公務員だ」「教員としてこんなことでいいのか?」と、退職するほうを批判する意見が多いのに、今日のNHKのニュース9で、「こういう現象を生むような引き下げのやり方が悪い」という????なコメントをキャスターがしたからです。
 そもそも、公務の退職金が民間に比べて割高でいいのか?といったらそれは、国民の血税ですから、誰も納得していないわけですね。
 今回の3段階の引き下げの第一弾の国家公務員分だけでも、130億円。3段階全てやれば、600億円の国家公務員人件費節約、地方ではなんと3400億円もの節減になるのですよ!!

片山さつき Official Blog : 退職金が民間より15%(平均400万円)高いとの調査により、引き下げが決まり、生徒と職場を放り出して駆込み退職した地方教員、警察の方々!公務の矜持は何処へ?

この90%の人達は、本当は辞めたいけど批難が退職後に及ぶことをおそれて辞められないのかもしれない(死ぬまでずっと「責任感がない」と影で言われ続けるとしたら、確かに70万円を投げ売ってでも最後まで勤めるという選択をしたくなる気持ちはわかる)。だとしたら、さすが社畜の国である。

経済合理的に行動することが、なぜ批難されなければならないのか - 脱社畜ブログ

今年度で定年退職する埼玉県の公立学校教員110人が、退職手当削減が始まる2月より前の退職を希望している問題で、県には教員批判だけでなく、「2月施行はおかしい」とする電話などが相次いでいる。

 広聴広報課には24日までに計41件のメールなどが寄せられ、うち27件は「2月施行は間違い」などと条例改正への抗議や批判。ほかは「早期改正自体は良い」「先生は無責任」などの意見だった。人事課にも「2月施行はおかしい」など15件の電話があった。

お知らせ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

会田組合長は茨城新聞の取材に対し、「市町村の職員数はぎりぎりで、国と違い余っていない。年度途中に駆け込み退職などがあっては、やりくりが大変で現場が混乱する」と説明。国県と対応が割れることについて「これも地方分権。やむを得ない」と述べた。

県内市町村、退職手当年度内減額せず 改正条例4月施行、県と対応割れる:茨城新聞ニュース

 ――3月末まで辞めない決断をした理由は。

 「これまでいた現場で、病気で休職する先生がいたが、代わりはなかなか来なかった。2月から2か月間だけ勤務する教師を急に確保できるとは信じられず、辞めるわけにはいかないと思った。来年度の先生に引き継ぐためにも、2月というのは大詰めを迎えた重要な時期。仕方がない」

 ――1月末の退職についてどう思うか。

 「私には出来ない決断。気持ちの上では、3月末まで勤めた方が気は楽だ。生徒を最後まで見届けたいという思いだけでなく、保護者に『投げ出している』と批判されるのでは、など他人の目が気になる部分も大きい。1月末で辞める先生の数は、自分が予想していたより多い。金よりも、現場を考えていない制度に対する怒りが、相当大きかったのだろう」

お知らせ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

ミルグラム実験(ミルグラムじっけん)とは、閉鎖的な環境下における、権威者の指示に従う人間の心理状況を実験したものである。俗称としてアイヒマン実験(アイヒマンテスト)とも呼ばれ、またこの実験の結果示された現象をミルグラム効果とも呼ぶ。

ミルグラム実験 - Wikipedia

*1:[http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130125-OYT1T00031.htm?from=ylist:title]

*2:我々の判断は損失に敏感なことを利用してあえて言い換えをしている。 [http://www.keiomcc.com/ando/index02.html:title]

*3:ブオルグってなんなんだ?ブログとオルグの造語だとしたらハイセンスすぎ。