セカンドベストはなんだ?

最善の策が取れなくても良い。最善を尽くすことがダイジ。

経済学はゲームも現実世界も関係なく通用しない。

「リアルビジネスでも、ゲーム理論ちっくなことが起きているぜ」という興味深い記事。
だが、経済学の概念を勘違いしてるっぽいので指摘と修正。
ゲームの世界の経済学が現実世界に通用するという話 - やねうらお−俺のブログがこんなによっちゃんイカなわけがない

なぜリアル店舗はネットより高いことが多いのか?

以下の現象を需要曲線の変形によって説明することは誤っている。
ネットショップよりリアル店舗の価格設定が高めでバラツキが多いのは、ただたんにリアル店舗はネットに比べて不完全競争市場だから。

近年、インターネットの価格比較サイト等の発展により、インターネット上で最安価格を見つけることが容易となった。それゆえ、需要曲線は上記のような反比例のグラフを取らない。典型的には次のようなグラフになる。
最安価格でなければほとんど売れない。ほとんど売れないながらも、ゼロではない。それは例えば、店頭販売であれば、わざわざ他の店を回るコストを考えるとそこで買ったほうがいいというような判断もあるだろうし、そのお客さんはその店のことがお気に入りなのかも知れない。あるいは、他の店のほうが安いことを知らないのかも知れない。

この傾向はインターネットでも同様であり、同じ店で買ったほうがまとめて発送できて送料が安くなるからだとか、ちょっとぐらいの差なら信頼できるほうの店で買うだとか、比較サイトで比較するのが面倒なのでいつも買っているところでいいやだとか、まあ、そういう人たちが一定数は存在して、最安価格からある程度離れていてもそこで買うのである。

また、需要は無限にあるわけではなく(いくら安くとも要らないものは要らない)、値段をかなり下げたところで一定数以上は売れないという需要の限界値がある。

補足

需要曲線と供給曲線による価格メカニズムは不完全競争市場では正しく機能しない。
また現実の世界では理想的な完全競争市場は存在しない。

完全競争が成立するには、以下の5つが成立しないといけない。
原子性:市場は小さな生産者と消費者がそれぞれ多数いて、それぞれの行動は大きな影響を他者に与えない。特に全ての会社がプライス・テイカーでなければならないことに注意。
均一性:すべての商品は同じ商品名である限りは完全に代替可能である。
完全情報:全ての会社と消費者はすべての商品の性質と価格を(他社のものまで)知っている。
平等なアクセス:全ての会社が製造技術へのアクセスを持ち、リソースや情報は完全に無料で移動可能である。
自由な参入:全ての会社が市場に自由に参入・退出できる。
そのような市場では、商品価格は一物一価となる。

完全競争 - Wikipedia

需要曲線と供給曲線の考え方

1.「特にネットショップでは最安値価格でないと売れない」という現象を需要曲線の水平近似で説明することは誤っている。

完全競争市場に近いネットショップではワルラス的価格調整機構が、リアル店舗より強力に働いているから。
例えば、価格ドットコムで最安値1万円のヘッドホンが、田舎のヤマダ電機では2万円で売れても、ネットのヤマダ電機だと2万円で売れないのは、リアル店舗のほうが競合店舗が少ない不完全競争市場だから。
あくまで消費者の需要曲線は右肩下がり=安ければ安いほど「欲しい」と思う人は多い。最安値は関係ない。最安値より安ければ、「欲しい」と思う人は増える。

需要曲線が水平に近くなるということは、経済学では「価格弾力性が大きくなる」と表現される。
映画館の学割などが事例。

2.「需要の限界」を需要曲線の垂直近似で説明することは誤っている。

「需要の限界」という考え方は面白い。最安値1万円のヘッドホンを8000円で売っても売り上げ数量はまったく変わらない可能性がある。
なぜか?高級ヘッドホンのニーズは限られているからだ。
需要供給曲線が成立するための完全競争市場では消費者は無限にいると仮定している。
消費者が無限にいるならば、ヘッドホンを安くすればするほど、需要も増えるので需要曲線は右肩下がりになる。

以下の現象は「価格が高いゾーンでは、需要曲線の価格弾力性がとくに小さい」と説明できる。

「最安価格より少し高め」と「最安価格よりかなり高め」とどちらのケースでも販売できる個数に大差がないため(上図のグラフを見ればそれが如実にわかる)

ワルラスの競売人

価格メカニズムは「(神の)見えざる手」や「ワルラスのオークショニア」と例えられる。
文字通りオークションがないと、価格メカニズムは働きづらい。

そのオンラインゲームにはゲーム内オークションのような仕組みはなく、単に露店売り(マップ上に直接露店を出すタイプ)であったために、露店ひとつひとつをクリックせねば販売商品を確認できなかった。それゆえ、最安の露店を探す手間が馬鹿にならず、面倒くさいので少しぐらい高くとも買っていく人が一定数存在した。

この事例は、「完全競争市場に近く、需要は旺盛だが最安値という均衡価格に収れんしているネット市場と、
参入障壁があり、売り手が価格支配力を持つリアル店舗市場では、均衡価格にかい離があるので、売れる数量の期待値に基づいて商品の投入量を割り振ってリスクヘッジすることで利益を最大化できる」というのが経済学的にベーシックな見方になるんじゃないだろうか?

生半可な経済学はビジネスで役立たない

わたしのように経済学を生半可に理解してもビジネスには役立たないことが多い。
べつに経済学なぞ勉強しなくても、センスある人は似たようなエッセンスに気づいてビジネスで成功する。
ちょっと誤解はありつつも、限界革命やベルトラン均衡に通じる概念を会得しているid:yaneurao氏は素直にすごいと思った。

ロジットモデル*1という全然関係ないけど似た形の需要曲線があるらしい。
そんなことより、わたしも理屈馬鹿にならないように生きた知識を身につけるようにしたい。

*1:[http://www3.grips.ac.jp/~kanemoto/bc/Logit2006_08.pdf