本当は怖い可逆圧縮 まとめ
ロスレス圧縮しても音質は劣化しない??
ITガジェットライターが適当に書き捨てたウェブページが拡散し、ロスレスの音質問題は都市伝説のようになってしまっている。
きちんと仕組みを調べてみた結果、この問題の答えはこうだ。
結論
ロスレス圧縮は元データを100%そのまま保存できる。しかしロスレス音源を再生するときはクロックジッターが増えるので音質が劣化がする。ただしどの程度音質が劣化するのか定量化は難しく、そのうえ影響はごくわずかだと予想される。また、クロックにノイズが乗らない工夫をしている機器では、ロスレス再生による影響を受けない。
お分かり頂けたか?
一言で表すと「ロスレスは音質が悪くなる場合がある」ということ。つまり「『ロスレスは音質が劣化しない』は嘘」だと言い切ってしまうのは、厳密には正確でない。正確に言い換えると「ロスレスは音質を一切劣化させずに圧縮できるし、きちんと配慮した機器であれば音質を劣化させないまま再生できる」ということになる。しかしロスレスを劣化させずに再生するには、かなりコストのかかる対策が必要なため、普通は音質劣化は避けられない。
ゆえに、雑誌やニュースサイトで見かける以下のような記述は正確さを欠いている。
AirPlayは音声をアップル独自の「Apple Lossless」と呼ばれる可逆圧縮方式で伝送するため、伝送経路によって音質が劣化してしまうということがない。
今こそ活用しよう! ワイヤレスで音楽を楽しめる「AirPlay」入門 - 音質劣化のない“ロスレス”の高音質再生が可能 日経トレンディネット
もっとも「日経BPは嘘つきだ!訂正!謝罪!」と騒ぐのも大人げない。音質劣化するといってもごくわずかであり、一般読者向けに「ロスレスは音質劣化しない」と言い切ってしまうほうがスマートだ。こうした簡略化された記述によって、「ロスレスは音質劣化しない」というデマゴギーが形成されたのだろう。
なぜロスレス再生で音質が悪化するのか?
ロスレス再生でクロックジッターが増え、音質が悪化する仕組みはこちらの記事を参照。
「ロスレス再生で音質は劣化する」 - 本当は怖い可逆圧縮 - セカンドベストは何か?
「クロックはノイズに弱い」 - 本当は怖い可逆圧縮 - セカンドベストは何か?
クロックジッターが音質に与える影響は?
クロックジッターが多いとDACの動作に悪影響が出る。
その結果、音がどうなるか?
DACの仕組みを考えると、とくに高音のノイズが増える。
以下のページで測定データがあった。
図4と図5を比較するとCD再生時には10KHzの左右にレベルが大きくなっているのが 明らかです。これはジッターの影響で再生信号が劣化(変調を受けている)していることを あらわしています。
ジッターについて
(中略)
図6では図7とくらべ1KHz周辺でレベルが大きくなっていないのことからジッターの影響を受けていないことがわかり、図3で 示した理論にあっています。
次の記述も有名。
歌手の口の大きさが変わる
デジタルオーディオが抱える潜在的課題に迫る:オーディオ品質とクロックジッター (2/5) - EDN Japan
目の前で演奏しているような実在感の再現が変化する
その場に居合わせる人の数が変わるといった気配の変化が生じる
演奏が単調になる(どんな曲を聞いても楽しい雰囲気になってしまう)
ロスレスを音質劣化せずに再生するには?
ロスレスデコードで汚れたクロックを使わず、綺麗なクロックをDACに入力すれば良い。
クロックの工夫と音質向上については別途まとめる予定。
ロスレスに特化した対策は下記記事参照。
ロスレス音源をWAVEと同じ音質で再生する方法 - セカンドベストは何か?
CDを取り込むならWAVE?ロスレス?
多少の音質を犠牲にしても、たいていの人にとってロスレスの利便性が勝る。