セカンドベストはなんだ?

最善の策が取れなくても良い。最善を尽くすことがダイジ。

DLNAのDTCP-IPを解除する方法 最終話『 漏れちゃったんだから仕方ないだろう 』

DLNAのDTCP-IPを解除する方法 第5話「エッチの前には認知してくれるか確認しなさい」 - セカンドベストは何か?の続き。

DTCP-IPのデバイスキーが流出するリスクについて検証する。

あらすじ

  1. Twonky Beamからデバイスキーが流出するリスクがある
  2. iPadDTCP-IP対応しないとBDレコーダーが売れなくなった
  3. Twonky BeamのDTCP-IP対応はソニーの敗北宣言

デバイスキーを安全に守るには?


ひびちゃんはかせて / sawamur

まず「絶対に漏らすな!」とライセンス契約の時点でDTLA社は脅しをかけている。
DTCP-IPに対応した機器をつくるには、
DTCPのデバイスキーを漏らしたら罰金800万ドル」
という小学生の指切りげんまんのような約束が必要なのだ。*1
どこまで対策をすれば免責できるか規定されておらず、DTCP-IPのライセンスを契約するかぎり、メーカーは罰金800万ドルの訴訟リスクに怯え続けることになる。

4【事業等のリスク】
(中略)
9.DTLAからの高度機密情報の提供について
当社は、DTCPのライセンス管理団体であるDTLA(Digital Transmission Licensing Administrator)に加盟し、同団体からDTCP仕様に関する高度機密情報の提供を受けております。当該情報は、DLNAやIPTVのコンテンツ保護における根幹の技術情報であり、当社製品への統合により競争力を高めることができます。しかしながら、DTLAとの約定により、当該情報を当社の責任により漏洩した場合、最大8百万米ドルの制裁金を請求される可能性があります。

ユビキタス社の有価証券報告書

信頼性が高い手法として、古典的にはハードウェアベースでの対策が行われてきた。

DTLAから供与されるデータには,機器1台ごとに異なる個別データが存在するため,システムには不揮発性メモリが必須である。この個別データの中には,その値が外部から観測できないように秘匿しなければならないデータもある。そこで,不正にそれらのデータをアクセスされ観測されることのないよう,外部からアクセス不可能な仕組みを設け,EEPROMをTC81501Fに内蔵化した。

東芝レビュー Vol.55

ソフトウェアベースでデバイスキーを埋め込む方式が、これまで皆無だったわけではない。
例えば2006年にはソニーのPS3がソフトアップデートでDTCP-IP対応した。

ただ、Twonky BeamのDTCP-IP対応はこれまでの常識をくつがえした。
AndroidやiOSのようなオープンなOSで動作して、しかも無料でダウンロードできる。
もちろん暗号化等の対策は施しているはずだが、そもそも外部からアクセスできないEEPROMを使う方法より、耐タンパ性が大幅に低下しているはず。

DTCP-IPのiPhone対応はソニーの英断

Twonky Beam開発元のパケットビデオ社がそこまでのリスクを背負うとは思えない。
おそらくパートナーのソニーが知恵を絞ったはずだ。

Android版Twonky BeamがDTCP-IP対応を発表する約1ヶ月前に行われた、
ソニー torne開発者への興味深いインタビューがある。
特に次の3点は注目に値する。

  • (Android/iOSをDTCP-IP対応させるには)リスクを承知で、アプリに暗号鍵を持たせるしかない
  • AppleDTCP-IPのライセンス料を払うつもりはないから、ソニーが折れるしかない
  • DTCP-IPの方針変更はARIB/テレビ局の了解が必要

 なお、モバイル機器での採用・持ち出しという点では、シェアの高い「iOS機器」への対応が期待される。
渋谷:はい。やる、という話はあります。否定する話は出ていません。当然のご要望だと思いますので。
水野:暗号鍵管理の問題はありますが……。アプリに暗号鍵を抱えさせてやるしかないでしょうね。
渋谷:見通しとしては、DTCP-IPはアップルではやらないんだろうな、と考えています。しかしユーザーニーズがあるのであれば、検討しなければいけないのだろうな、とは思っています。
石塚:我々として、ARIBに違反する形でやる、ということはないです。しかし、その中でやる方法もないではないので、色々検討していきたいです。難しいところがあるのは事実ですが。
渋谷:torneの時から、我々は放送局廻りをして、「こういう形でやります」という風に説明をさせていただいています。放送局側が気にするのは、IP上で映像を流す時などの著作権保護についてですが、その点は、きちんと了解を得た形でやっています。

【西田宗千佳のRandomTracking】「nasne」が切り開くレコーダの未来 -AV Watch

DTCP-IPのiPhone対応には「流出したら違約金800万ドル」と「デバイスキーのソフトウェア埋め込み」という2つのリスクがあった。
そこで、ソニーはDTLAを通じて、
「Twonky Beamからデバイスキーが流出してもDTLAは賠償金を求めない」
そんな約束をパケットビデオにしてあげたのではないだろうか?
そして見返りにDTCP-IPの1台ごとのライセンス料はパケットビデオに負担させ、
Twonky Beamを無料提供を実現したのかもしれない。

ともかく、一連の思い切ったソニー陣営の動きで、
BDレコーダーのシェア1位のパナソニック*2は大きく水をあけられた。
nasneもないし、提携しているアプリ「Dixim」はプリインストール専用・・・

ソニーが動いたもうひとつの理由

ソニーが動いた理由はライバルのパナソニックに一矢報いるだけでなく、
もっと切実な理由が考えられる。
BDレコーダーが売れなくなってしまったのだ。
統計的裏付けは以下参照。
2012年の民生AV機器市場で起きた悲劇 - セカンドベストは何か?
iPhone/iPad対応は冷えきった市場にぶち込むカンフル剤というわけだ。

DTCP-IP対応はソニーからアップルへの敗北宣言

iPhone/iPadDTCP-IP対応でソニー製品の魅力は増したのは間違いない。
だけど、そもそもDTCPを立ち上げたことの狙いはアップルともライセンス契約を結んでもらうことだったはず。
日系メーカーが手塩をかけて育ててきたDTCPという規格は、アップルからは一銭も受け取ることなく、開発コストもリスクもすべて日本メーカーが背負う形でAndroid/iOSに開放する膜引きになった。

アップルとソニーはこれまでも様々なジャンルで争ってきた。
ノートパソコン、MP3プレイヤー、携帯電話・・・
そしてテレビとレコーダーだけはアップルが参入できていないソニー・パナソニックの牙城だった。
ソニー・パナソニックは日本の放送局と結託して、DTCP-IPで守りを固めた。
一方、アップルはiPod touch, iPhone, iPad, AppleTVと革新的なデバイスを次々と世に出していった。
攻撃は最大の防御。
ソニーvsアップルの家電ホコタテ対決は、アップルに軍配があがった。

液晶テレビにはAppleTVをつなぎ、AppleTVとiPadはAirPlayで、iPadとレコーダーはDLNAでつながるようになった。
アップルがDTCP-IPを契約しないかぎり、ソニーのレコーダーはこれからも安泰だ。
だけどもう、ソニーのスマートテレビやスマートフォンにとってみれば、レコーダーと連携するというメリットはなくなった。
Xperiaは身内からのアシストなしに、ガチンコでiPhoneやGalaxyと戦わないといけない。
「総合家電」がシナジーを発揮することが難しい時代になった。

*1:[http://d.hatena.ne.jp/Grenouille/20110727/1311751136:title]

*2:[http://bcnranking.jp/award/section/hard/hard45.html:title]