放送利権にむしばまれた?LSIとソフトウェアでたどるDTCP-IPの歴史
日本のテレビ産業史「2000年代 DLNAによる家電ネットワーク時代」part2 - セカンドベストは何か?の続き。
概要
IEEE1394と同様、日本メーカーはDTCP-IPの専用LSIを開発した。
その一方で、Windows/MacやAndroid/iOS向けソフトウェアの配布は厳しく制限した。
理由は3つ。
専用LSIを使ったDTCP-IP対応は3000円ちかい製品コスト上昇につながってしまったが、家電メーカーはぜーんぜん危機感を持たなかった。
利権を守りたい放送局にゴマすりできるし、
『地デジ対応』の謳い文句で買い替え需要を狙う口実になったからネ。
たとえばソニーのDLNAクライアント「VGP-MR100」は、DTCP-IPに対応した後継品「VGP-MR200」と同じデザイン・スペックだったが、アップデートでDTCP-IPに対応することはなかった。
総務省の「地デジ化」を免罪符に、マイナーチェンジで買い替えさせる「地デジ化」商法が確立したんだネ。
そんなアコギな商売も長続きせず、
2010年頃になるとレコーダー自体が売れなくなってきた。
そこでカンフル剤として、国内製スマホやPS3にソフトウェアベースのDTCP-IPを提供して、レコーダーの付加価値をなんとか維持しようとした。
ま、大局的にみれば、消費者から見捨てられ、市場縮小が止まらないレコーダーにとっては焼け石に水。
2012年、ついにiOS/AndroidへのDTCP-IP対応アプリの無償提供に踏み切ることになった。
こうして日本の放送利権にからんだDTCP-IPをめぐる家電業界の争いは、
iOS/Androidへの無条件降伏という形で幕を閉じることになった。
無償アプリの登場によって、
AppleやサムソンはDTLAにライセンス料をびた一文支払うことなく、
iPhone/iPad/GlaxyをDTCP-IP対応DLNAクライアントにすることができた。
「ソニー神対応キター!この冬はnasneが買いだ!!」
Apple様の神通力にあやかって、そんな便乗需要をソニーは目論んだ。*1
iOSユーザー、世界初の新体験!
世界初スゴすぎ。ソニーのBDレコーダーでできるiPhone・iPadへの録画番組ストリーミングが快適すぎて寝不足になりそう : ギズモード・ジャパン
年末年始のテレビ三昧を前に、家でのテレビライフを変えてしまうかもしれない(というか僕は少し使っただけでもう変えられつつある)、めちゃくちゃ強力なiPad、iPhoneアプリのアップデートがあったんです。
とはいえ、日本の家電産業にとって、DTCP-IPをiPhoneに提供したことによる犠牲もまた大きかったと思う。
第1に、マイコンの性能が飛躍的に向上したため、DTCP-IP専用LSIは完全に無用の長物となった。
これまでは耐タンパ性を理由に、DTCP-IPのソフトウェア実装は頑なに拒否してきたわけだけど、Androidのようなオープンソースプラットフォームで実現している以上、その言い訳は通用しない。
第2に、未来の稼ぎ頭「スマートテレビ」を含む、これまで発売してきた数々のDTCP-IP対応DLNAクライアント機器が生け贄になった。
放送転送機能などごく一部の独自機能を除けば、iPhone/iPad/中華pad/iTVで100%代替できるようになってしまったからだ。
いまさらディーガプラスとかパナソニックのタブレットを買う意味ってほとんどないよね?
DTCP-IP対応のLSI&ソフトウェアの歴史
DTCP-IPの採用機器については日本のテレビ産業史「2000年代 DLNAによる家電ネットワーク時代」part2 - セカンドベストは何か?も参照あれ。
年表
MN103E0700は,Ethernet接続に対応するデジタルAV機器の用途を想定する。CPUコアとMAC回路,DTCP-IP向けの暗号化回路,バス・コントローラなどを1チップに集積する計画
【ESEC】松下電器,DTCP-IP規格でコンテンツを伝送できるマイコンを開発中 - 家電・PC - Tech-On!
DTCP-IPの機能を実装する際には,
(1)ハードウェア,ソフトウェアの改ざんや盗聴などによって著作権保護機能を無効にできないこと,
(2)処理の遅れなどによる映像コンテンツの品質悪化を起こさないこと
の2点が特に重要である。このため,日立製作所では,DTCP-IP処理をLSI内に隠ぺいすることによって不正利用を困難にするとともに,時間を要する暗号化・復号化処理はハードウェア回路を用いて高速に処理する専用LSIの開発を進めている
- 2005年9月 ルネサスがDTCP-IP対応Ethernet制御マイコン「SH7650」(サンプル価格2500円)を発表。*5
- 2005年10月 日立がSH7650によるハイビジョン映像のDTCP-IP伝送を実演。
DTCP-IPの認証や暗号化などの処理はルネサステクノロジのLSI「SH7650」が実行する。
【CEATEC】HDTV映像のDTCP-IP伝送,日立製作所とソニーが実演 - 家電・PC - Tech-On!
搭載するCPUコアは動作周波数が133MHzのSH-2で,さほど処理能力が大きくないCPUコアでも実装できることを示した。
SH7650のコストの増分は3000円くらいになる見込みで,実際には大画面のテレビ向けになりそうだ。
SH7650はHDTVストリームの処理にも対応しているが,松下電器のMN103E0700は「処理できるストリームのデータ速度が20Mビット/秒程度」(説明員)で,公式にはSDTV対応をうたっている。
【ET2005】「いつでも量産できます」,松下電器がDTCP-IP対応マイコンを1チップ化 - ソフトウエア - Tech-On!
- 2006年9月 スタンダードマイクロシステムズ(SMSC)もDTCP-IP対応Ethernet制御マイコン「LAN9131」(サンプル価格$20)を発表。*7
- 2007年4月 東芝がDTCP-IP対応無線LAN用LSIを開発*8
- 2009年5月 ユビキタス社がAndroid+OMAP3環境に対応したDTCP-IP スタック「UbiquitousSAFE DTCP-IP」を発表((ユビキタス社、DTCP-IPをAndroid+OMAP3環境に対応 | 2009 | プレスリリース | ニュース | 株式会社ユビキタス
AndroidやiPhoneが対応できるのに、windowsが対応できない理由が思いつかない。
おそらく「800万ドルの違約金」等々、DTLA側が無理難題を要求したとしか思えない。
「Windows 7においては、残念ながら、DTCP-IPのサポートは行なわれないことが決定した。いくつかの場でDTCP-IPサポートに関するコメントが行なわれていたようだが、訂正させていただきたい」(マイクロソフト 広報)
【西田宗千佳のRandomTracking】RC版から見るWindows7のAV系機能 -AV Watch
*1:[http://b.hatena.ne.jp/entry/www.gizmodo.jp/2012/12/sony_bd_recorder.html:title]
*2:[http://www.digion.com/pf/news/20050106.htm:title]
*3:microsoft
*4:[http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20050623/106073/:title]
*5:http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20050902/108234/:title]
*6:[http://jp.access-company.com/news_event/archives/2006/060621/:title]
*7:http://eetimes.jp/ee/articles/0609/25/news096.html:title
*8:[http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070420/131366/?ref=RL3:title]
*9:[http://pr.fujitsu.com/jp/news/2007/11/8.html:title]
*10:[http://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/20090901_312208.html:title]
*11:[http://www.nttdocomo.co.jp/support/utilization/product_update/list/sh12c/index.html:title]
*12:[http://blog.isnext.net/issy/archives/1538:title]
*13:[http://www.digion.com/pf/news/20110628.htm:title]
*14:[http://k-tai.impress.co.jp/docs/news/20120613_539848.html:title]