日本のテレビ産業史「2000年代 DLNAによる家電ネットワーク時代」part1
日本のテレビ産業史「1990年代 DTCPとi.LINKによるネットワーク化」 - セカンドベストは何か?の続き。
3行で要約
i.LINKからDLNAへ
テレビとビデオデッキをつなぐケーブルといえば、赤黄白のRCA端子が定番だった。
そこにi.LINK端子が登場し、複数のテレビやレコーダをつなぐことが一応は可能になった。
で、2000年代になると家電にもネットワーク端子*1が搭載され、
家電とネットをつなぐ共通規格 DLNA*2ガイドラインが出来上がった。
参考:使いづらかったi.LINKIEEE1394は互換性に問題があり、ネットワーク化は難しかった。
Q08.
デジタル放送のコピー制御方式ってなに? -回答一覧- | 地上デジタル放送 なんでもQ&A | テレビ プラズマテレビ 液晶テレビ VIERA(ビエラ) | パナソニックのパナソニックのお客様サポート | Panasonic
D-VHSビデオを複数i.LINK接続して同時に録画する場合はどうなるのか?
A08.
直列つなぎ(デイジー・チェーン)での手動での同時録画は可能です。(最大15台まで)但し、タイマー録画は出来ません。
→並列つなぎ(ノード分岐)時は、同時録画はできません。
デジタル映像や音声などのデータを複数のi.LINK機器間で双方向にやりとりしたり、機器のコントロールをすることができます。D−VHSでは、16台までの機器を接続して、使用することができます。但し、やりとりするデータのフォーマットが異なるとデータをやりとりすることや機器操作などができません。D−VHSビデオでは、MPEG2−TSフォーマットを使用しています。 デジタルビデオカメラやDVDレコーダーなどでは、DVフォーマットを使用しているため、相互のデータやりとりや機器操作をすることができません。
D-VHSビデオ よくあるご質問 回答 | よくあるご質問一覧 | DVDレコーダー DIGA(ディーガ) DVDプレーヤー VHS | お客様サポート | Panasonic
そこでAV機器向けIEEE1394のネットワーク規格としてHAViが策定されたが、DLNAやHDMIが登場するとあっけなく息絶えた。*3
DRMのないDLNAは「足のないジオング」
当初、DLNA ver1.0にはコピーガード(DRM)の規定がなかった。
モビルスーツで例えると、ジオングに足がないようなもの。
「あんなの飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ。」
と整備士が喝破したように、DRMの有無はユーザには無関係だが、
権利者*4や総務省、ARIBのエライ人はコピーフリーを許さなかった。
DRM戦国時代
ユーザからしたら邪魔でも、ベンダーにとってDRMは「濡れ手で粟」のビジネスだ。
なんてったって、ひとたび標準採用されれば寝ててもライセンス料が入ってくる。DRMより儲かるビジネスはアムウェイくらいじゃないかな?w
2000年代、有料コンテンツのネット配信するニーズが高まると、
世界中・各業界の企業が独自方式を開発し、DRM戦国時代に突入した。*5
Sony Japan | 技術情報|デジタル著作権保護技術“Marlin(マーリン)”Consumer Electronics業界向けのDRM
2006年当時、インターネット配信における著作権保護技術は、IT業界が主体的となって開発したDRM、たとえばApple社が開発した「FairPlay」やMicrosoft社が開発した「WMT (Windows Media Technology)」が主流となってきていた。そういった背景の中CE(Consumer Electronics)業界からも、CEのスタイルにあったDRMをという声が高まり、ソニー、松下電器産業(現パナソニック)、フィリップス、サムスン電子、そしてDRMの基本技術を有しているインタートラスト社の5社が集まり、Marlin(マーリン)と呼ばれるDRMの開発を行った。
DLNAとDTCP-IPのおいしい関係
数あるDRM方式のなかで、DLNAはDTLA社が策定したDTCP-IPを標準のコピーガードに指定した。
何を隠そう、DLNA社もDTLA社もインテルとソニーが中心メンバーであるというお手盛りリーズンに加えて、
DTCP-IPは家庭内LANでの利用を想定しており、ウェブ経由での承認が不要というメリットがあり、DLNAと相性が良かった。
当時の未来予想図では、各種DRM方式をDTCP-IPに変換してLAN上に配信することも夢見ていた。*6
DTCP-IPを採用した結果は?
日本では総務省のお触れで、DLNA+DTCP-IPが家庭用録画機の標準機能になった。
地上デジタル放送、BSデジタル放送、CSデジタル放送といったデジタル放送のDLNAでの利用をARIBは禁止していたが、DTCP-IPで暗号化すればOKという規制緩和を2005年に行ったからだ。
DTCP-IPでテレビをガッチガチにコピーガードをすることで、
地方で縛った放送免許という既得権益を持つ放送局にとってはYoutube・ニコニコ動画対策に、
日本の家電メーカーにとっては国内市場の参入障壁として作用し、
i.LINK向けDTCPと同じビジネスモデルが成功したかに思えた。
がしかーし・・・・
結果はどうなったか?
2011年までは、
DTCP-IPやB-CASによる規制とアナログ放送の停波特需のおかげで、
国内の家庭用レコーダー市場はそれなりに順調だった。
しかし、スマートフォンが本格普及した2012年になると状況は一変。
高価で使いづらい地デジとレコーダーそのものが不要になってしまった。
そのかわりに、iPhoneでYoutubeを見る消費スタイルが選ばれたのだ。
意地悪な言い方をすれば、
「テレビは暇つぶしのメディア」という側面を忘れた傲慢な日本のテレビ局が、
タダのテレビごときにプレミアムコンテンツ*7と同等の重DRMを要求した結果、
テレビ離れ・ネット依存を助長する遠因になったんだと思う。
補足:なぜBDレコーダーが売れない?
最大の要因は、録画対応の薄型テレビが次々と発売されたこと。販売台数に占める割合は、1年前(2011年1〜3月)は、薄型テレビの34%にすぎなかったが、今年1〜3月は68%(GfK調べ)と倍増した。
録画機が売れない理由:日経ビジネスオンライン
私がスマホ要因だと思う統計的裏付けは以下の3つ。
- 家庭用レコーダーの市場規模は2012年に急減し、DTCP-IP採用前(2004年)と比べて半分以下に縮小した*8
- 2010年には普及率10%だったスマートフォンは2011年末になると30%に急増。*9
- 光ディスクレコーダー*10の普及率は2012年3月で75%だが、2005年3月時点ですでに60%に達していた。*11
なお「DTCP-IPがなぜ失敗したか?」については、おいおい別記事で考察したい。
*1:RJ-45モジュラージャック, LAN端子, ネットワーク端子, Ethernet端子
*2:Digital Living Network Alliance
*3:[http://www.satellite.co.jp/havi.html:title], [http://techon.nikkeibp.co.jp/members/01db/200301/1016237/:title]
*4:映画会社、レコード会社、テレビ局などのコンテンツホルダー
*5:[http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20050120/100811/:title]
*6:[http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20060109/226986/:title], [http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1109/ubiq85.htm:title]
*7:有料のコンテンツ。お金を払ってもみたい映画やドラマなど
*8:[http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/index.htm:title]
*9:[http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/120530_1.pdf:title]
*10:DVD/BD/HD DVDレコーダーのこと。HDDレコーダーが含まれている場合もあり
*11:[http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/shouhi.html:title]