セカンドベストはなんだ?

最善の策が取れなくても良い。最善を尽くすことがダイジ。

2012年の民生AV機器市場で起きた悲劇

DTCP-IPのiPhone/iPad対応は『家電業界のポツダム宣言受諾』やぁ〜 - セカンドベストは何か?の続きです。

要点「うわっ・・・店の在庫あまりすぎ・・・?」

2012年はオリンピックがあったにもかかわらず、
ちょっと信じられないくらいにテレビ・レコーダーが売れていない。
代わりに売れているのは・・・そう、スマホとタブレットだ。

「くぬぬ。このまま事業撤退するくらいだったら、アップルの勢いを借りるしかあるまいっぃい」
今回のDTCP-IPのiOS/Android対応は、日系家電メーカーのそんな嗚咽が漏れ聞こえるようだ。
いったいこの一年でなにが起きたというのか?

デジタル三種の神器の2012年市況

  • テレビ:前年比30%の500万台
  • レコーダー:前年比42%の200万台
  • デジカメ:前年比81%の590万台

1月〜10月までの国内出荷額の統計資料から抜粋。
テレビは、なんと去年の3割しか売れてない。
デジカメの8割(=2割減)が可愛く見えてしまうほど。
圧倒的に需要不足。
この1年でレコーダーは300万台ちかい需要が消えてしまったことになる。

一方、スマホは前年同月比133%の850万台。しかも、この統計は国内メーカーのみが対象。
統計に参加していないトップシェアのiPhoneやGalaxyなど外資メーカーを足し合わせると、少なくとも年間1000万台以上のスマートフォンが売れている。

日本国内のテレビ・レコーダー市場は目の肥えたユーザーが多く、
高付加価値なモノづくりが得意な日本の家電メーカーの牙城だと言われてきた。
世界市場では勝ち組のサムソンやLG電子でさえ日本市場は攻略できていない。
そんなお膝元のなかのお膝元、股間の中のち◯こともいうべき急所が衰えてきたから大変。

録画機能付きテレビだのスマートテレビだの、あの手この手を試したもののいよいよ手詰まり。
そんな折に耳にしたのがスマートフォン人気で高級ヘッドホンがバカ売れ」というニュース。
テレビ・レコーダーも、自社のスマホ・タブレットとの連携ならとっくにヤっている・・・
「やっぱ『強力わかもと』じゃ効かないな・・・」とばかりに、舶来のバイアグラことiPhone/iPadに手を染めたソニーさんなのでした。

ついに!BDレコーダーで録画した番組をiPhone/iPadで見れるようになったよ!

2012年、ソニー、パナソニックのレコーダーが相次いでAndroid/iOS対応を発表。
日本のテレビ番組をネットワーク配信するのに必要なDTCP-IPという機能を
国内メーカー同士で協議してスマホに解禁したのだ。
それまでは、DTCP-IPに対応できるスマホはシャープだけだった。*1

補足
  • DTLAはDTCPの仕様を決めているインテル、日立、パナソニック、ソニー、東芝の5社の集まり。
  • スマホとレコーダーの機種によって映像の処理能力に違いがあるため、DTCP-IP対応機器同士あっても再生できない場合がよくある。SonyはTwonky Beamと、PanasonicはDiximと連携して互換性をチェックしている。
  • DTCP-IPに対応するには、1台ごとにメーカーがライセンス料を払わないといけない。Twonky Beamがなぜ無料なのか謎。(広告収入?ソニーから奨励金?DTLAと裏取引?ライセンス違反?)
  • DiXiM for AndroidはNECカシオ、富士通、京セラのスマホのみプレインストール。Panasonicのスマホ「ELUGA」はお友達のDIGAくんと疎遠なうえ、事業撤退が噂されるカワイソな子。

DTCP-IPは金のなる木

「録画したテレビを好きなところで見れる」という機能はユーザーにとって非常に魅力的だ。
それを実現するキモになるDTCP-IPや類似技術で自社製品を囲い込むことで、
ソニーやパナソニックは周辺機器で荒稼ぎしてきた。

DTCP-IPとiPhoneのよくある誤解

今回のDTCP-IPのiOS対応のニュースによって、
家電メーカーがDTCP-IPを意図的にスマホから外していたことが明白になった。
この点について、AVwatchのこの記事のように「iOS/Android側の仕様が原因でDTCP-IPには対応できなかった」といった記述でミスリードするメディアが多い。

「iOSや古いAndroidではTTLを取得できないからDTCP-IP対応できなかった」というロジックがなぜミスリードか?
たしかにDTCP-IPでは家庭内利用に限定するためTTLに制限があったが、
実際の規格仕様としては、TTLは受信側の自己申告であり紳士協定に過ぎなかったのだろう。
だから「今日からTTLはチェックしなくてもOKだよ!てへぺろ☆」とソニーが鶴の一声をあげれば、
iPhoneからでもソニーのレコーダーに録画されたローラの映像を見ることができるのだ。
もしTTLチェックがDTCP-IPの暗号化手続きに組み込まれていたなら、
TTLをチェックしない受信機(スマホ)に対して、送信機(レコーダー)は通信を拒否するはずだからだ。

ソニーはあと10年戦える?

鉱物資源の拠点オデッサが陥落したとき、ジオン軍の将校マ・クベはこう豪語した。
「戦いはこの一戦で終わりではないのだよ。考えても見ろ…我々がジオン本国に送り届けた鉱物資源の量を…ジオンは、あと10年は戦える!!
その後、2ヶ月足らずでジオンは敗北を迎えた。

DTCP-IPという金脈をアップルに明け渡したソニー・パナソニックはコンシューマ・エレクトロニクス業界で戦い続けられるのだろうか?
次回、DTCPと家庭用録画機器の歴史を紐解き、この問いを検証してみたい。

*1:http://shigeorg.web.fc2.com/dtcp-ip-3.html

*2:http://www.dtcp.com/documents/licensing/dtla-adopter-agreement.pdf